人生見切り発車

永遠にみつからない自分探しの旅(仮)

過去の見切り発車 海外放浪 1人旅 29 ベトナム編《フエ カジノでルーレットに溺れる ⑤ 最後のスピン》

 

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見切り発車 あさっての方向へ旅立つの巻

 

ルーレットのベッティングマシンの

画面には299ドルと残高が

映し出されていた。

 

1の位が9なのは、ギブアップして

辞めて、換金した時に、1ドル札が

戻ってくると何かと使い勝手がいいから

だった。

 

だが、そんなのは殆ど自分のギャンブル病

に対する小細工でしかなく、ゼロになるまで

やめれないのは心のどこかではわかっていた。

だてに、できそこないの自分自身と

二十何年もつきあってきたわけではない。

 

150ドルを連続で賭けよう、と僕は思う。

2回連敗して、ゼロになったらまた考えよう。

(すでに2回連敗したらやめよう、と

なっていない自分がいた)

 

敗北者のガラスの決心に呼応するかのように、

それから、なぜか調子よく当たり続け、

あっという間に残高が再び1000ドルを

超え、1149ドルになった。

今夜はこれまで何度も残高が1000ドルを

超える場面はあったのだが、なぜか

そこが天井となって再び坂道を転げ落ちる

ことの繰り返しだった。

 

1000ドルを超えたんだから、もうやめる

べきだ、と黒服の女性が話しかけてきた。

ベトナム人特有の彫りの深い顔立ちをした、

彼女の瞳は、他人の僕を、どこか友人か家族

を心配するような、そんな色をしていた。

 

恐らく、1000ドルという金額は、彼女の

月収を優に超えるのだろう、と僕は想像する。

下手したら3か月分くらいかもしれない。

 

1分かからない勝負に、毎回彼女の労働

数日分にはなるだろう日給を賭けているの

だから、彼女の目からしたら、

クレイジーな日本人極まりないこと

間違いなしだ。

 

確かに、もう辞めるべきなのだろう。

今までの経験則から、ここからゼロになる

ことだって、充分ありうる。

1149ドルでいいじゃないか。。。

150ドル負けなら勉強代だと思えば

いいじゃないか。。。

(まあそれをいったら今までどれだけ

勉強代を払ってきたんだという話になるが)

 

そう思いつつも、やはり僕は今やめる気に

ならなかった。

連勝しているときは、外れる気がしない

ものだ。その感覚に惑わされて、僕は

いままでの人生、何度も、そう何度も

苦渋を飲まされてきたわけだが。。。

 

Little more...(もう少しだけ。。。)

僕はつぶやく。

 

そう、もう少しなのだ。

あと、2回連続で勝てば間違いなく

今晩費やした1300ドルがすべて

戻ってくる計算だ。

 

僕は再び赤に100ドル、そして

今回は0にも15ドルを賭けた。

49ドルという中途半端な数字は、

これからは0のために費やすことにした。

 

白球が、盤から吐き出される。

もう何度も、もう数えきれないくらい

見てきた瞬間だ。

 

黒服の女性は、本当にもうやめたほうが

いいよ、と僕にもう一度告げる。

 

Little more...(もう少しだけ。。。)

僕は同じ言葉を返しながら、

このスピンが終わったら帰ってもいいかも

しれない、と思い始める。

外れても1000ドルちょっと残る。

なくしかけたことを考えれば上等だ。

それに、なんだか友人のようにたしなめて

くれるこの女性にもなんだか悪い気がする。

 

単にもう客が僕だけだから、早く帰りたい

だけなのかもしれないが。。。

 

Little more...

と僕が誰に言うでもなく、

もう一度つぶやいた瞬間、

 

突起にはじかれた

白球は、

緑の

ポケットに

吸い込まれた。

 

盤に唯一の緑色のポケット。。。

その数字は、まぎれもなく、

0だった。

 

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