人生見切り発車

永遠にみつからない自分探しの旅(仮)

過去の見切り発車 海外放浪 1人旅 28 ベトナム編《フエ カジノでルーレットに溺れる ④》

 

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見切り発車 カジノでブレーキが壊れるの巻


1000ドルを失ってから、

僕は新たに300ドルを

ルーレットマシンに投入した。

 

僕は、はっきりいって病気で、こと

ギャンブルに限っては、赤い旗を目の前に

振られた闘牛のように、負け続けると

自分自身を全くコントロールできない。

 

やめられるときがあるとすれば、

マイナスからプラマイゼロに戻せたときか、

あるいはもう手持ちのカードを限度額まで

使い、キャッシングができなくなった

ときか、そのどちらかしかない。

 

それなのに、ギャンブルをするときは、

2000円だけとか、1万円だけ使おうとか、

守れるわけのない約束を自分に課して

ギャンブルに行くのだから、我ながら、

手の施しようがない。

恐らく世間の、

重度のギャンブル中毒者は、だれしも

似たような経験があるだろうと思う。

 

300ドルを新たに投入してからは、

僕の1回の賭け金は100ドルになった。

感覚がマヒしだしているせいもあるが、

既に1000ドル負けているのに、

20ドルづつ賭けても、到底プラマイゼロ

に戻らないからでもある。

 

プラマイゼロに戻すために、賭ける金額を

あげるのは、ある意味理に適っているが、

当然のことながらリスクは相当大きい。

雪だるま式に負けがこんでいく可能性が

ある、というかそうなることのほうが

よっぽど多い。

 

だが、100ドルに賭け金をあげてからは、

不思議と調子がよくなり、残高が

600、

800、

1000ドル

とあっというまに3倍になった。

 

しかし、もう少しでプラマイゼロだ、という

ところから、再び負けだし、すぐにまた

300ドルに残高が戻ってしまう。

 

それからは300ドル~1000ドル

あたりを何時間もかけて

いったりきたりの繰り返しとなった。

 

例えばこれが何か戦略を必要とする

勝負事なら、もう少し勝てば辞めれる

ところで気が弱くなったりして冷静な

判断ができなくなるというのなら

わかるが、僕がやっているのは

本当に運しかないルーレットである。

運命の神か、あるいは悪魔の手のひらで

踊らさせているような気すらしてくる。

 

その後も数時間ルーレットをやり続け、

あるとき勝ち続けて1000ドル

になったとたんに、

あっという間に連敗をして

500ドルになったときから、

僕は時折200ドルを賭けるようになって

きていた。

 

残高の上下が、ますます激しくなってくる。

こういう賭け方をすると、連敗のダメージが

大きいから、往々にして

気が付くと持ち金ゼロになってしまうのは

わかっている。

だが、それでも自分を止めることができなかった。

 

僕は腕時計に目をやった。

既に夜10時を回っている。少なくとも

6時間はこのルーレット台に居座ってることになる。

 

もともと少なかった他の客はもう誰もおらず、

ルーレットをやっているのはもう僕だけだった。

 

カランカラン、とルーレットの盤上を回る

白球の、無機質な音がカジノの

暗闇の中で響いていた。