人生見切り発車

永遠にみつからない自分探しの旅(仮)

過去の見切り発車 海外放浪 1人旅 44 ベトナム編《ダナン ぼったくりバーにひっかかる⑥》

 

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見切り発車 いい年こいてカツアゲにあうの巻


財布を出せ、といわれ、僕はまごついた。

 

そういえば、フィリピンで仕事をしていた

知り合いが、こんなことをいっていた。

 

バスに強盗が現れて、乗客全員の財布を

出せといった事件がフィリピンでは

おきることがたびたびある。

 

日本人は、抵抗する人間が多いが、

抵抗するとその場で射殺されることが

ほとんどだという。

 

現地のフィリピン人は、ほとんど

抵抗せず、そのままカバンごと出して

しまうらしい。

 

平和ボケの環境で過ごしている日本人は、

本当に危険な状況に出くわしても、

イマイチ、ぴんとこないのかもしれない。

 

この時、財布を出さなかったら、

どうなっていたか、それはわからない。

 

だが、男三人に囲まれ、出口はふさがれていた

から、自分の腕試し(しかも命懸け)を

してみるか、財布を出すか、どちらかしか

選択肢はなかった。

 

どうせなら、海外放浪に通う前に集英社

通って北斗神拳でもマスターしてくれば

よかったが、後の祭りとはこのことだ。

 

僕がしぶしぶ財布を出すと、

80万ドン(5千円くらい)は

あっさり抜かれ、そのあと紙幣1枚1枚

吟味し、これはなんだと聞いてくる。

 

トラベラーズチェックが財布から出てきた

とき、それは使えないぞ、パスポートが

必要だというと(それは真実だった)、

それはお前のいうとおりだ、

とあっさり受け入れられた。

 

クレジットカードが抜かれないように、

僕は財布からクレカをとって、ズボンに

いれる。

 

いまポケットにいれたのはなんだ、

といわれ、クレジットカードだ、

と素直にいうと、

それ以上は追及してこなかった。

 

どうやらクレカまで手をだすほどの

悪党ではないらしい。

恐らく、足がつくからだろう。

 

結局80万ドン、1万円札、と

少しばかりのユーロなどが取られ、

財布は見事に空になった。

 

小太りの男は財布を僕に返して、

Is this all?(これだけか?)と聞く。

 

僕は小太りの男の、爬虫類のような目から

目をそらさないようにしながら、言った。

This is my wallet. 

How could I have money other than my wallet!

(これは財布だぞ、全部に決まってる!)

 

別の痩せた男が、後ろのポケットのふくらみ

はなんだ、という。

ごみしか入ってない、と僕は返して、

ポケットを裏返す。

 

これではまるで、カツアゲにあった中学生だ。

なんならジャンプしてコインの音がしないか

確認してもらった方がいいかもしれない。

 

痩せた男が続けて、僕のウエストポーチを

指さしていった。

What is that ?(それはなんだ?)

 

まずい、と僕は思った。

エストポーチにはカジノで取り戻した

2500万ドン

がそっくりはいったまんまだった。

 

僕は、対角線にある部屋のドアに

目をやった。

それは、まるで蜃気楼の果てにでも

存在するかのように、とてつもなく

はるか遠くに見えた。