人生見切り発車

永遠にみつからない自分探しの旅(仮)

過去の見切り発車 海外放浪 一人旅 ベトナム編 17 《バイタクで疾走》

 

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街並みが趣深いハノイの街


廟を見終えても、まだ昼を過ぎたくらい

だった。

手元の地図を頼りに、

次は刑務所博物館に行くことにするが、

場所がさっぱりわからない。

 

地図とにらめっこしていると、

バイタクおじさんに話しかけられた。

いらない、と無表情で手を振ったが、

「どこに行きたい」

「どこでもいく」

ベトナムで何度も聞いた常套文句

を呪文のように繰り返してくる。

 

よく見ると、そのバイタクおじさんは、

日焼けした顔に、人懐っこい笑顔を

浮かべていた。

人は悪くなさそうだ。

(悪人は悪人にはみえないものだが)

刑務所の名前を見せて、知っているか

と聞くと、もちろん、という。

まあ、一度くらいは乗ってみても

いいか、という気持ちも手伝い、

ハウマッチと聞くと、

20,000ドンだという。

150円しないくらいだし日本でいえば

バスくらいにしかならない値段だ。

まあいいか、と僕がOKというと、

ヘルメットを渡された。

バイタクは、何か特殊なバイクに乗って

いるわけでもない、普通の原付だ。

言い換えるならバイクを所持している

そこらの無職おじさんでも、たぶん

バイタクは始められるだろう。

ぼったくられても嫌なので、先に20000

ドンをわたし、これでいいか?と聞くと、

OK、OK、と笑顔を返してきた。

 

僕を後ろに乗せたバイタクが、走り出す。

時速は30~40kmくらいだが、

周りはバイクの洪水というくらいバイクで

密集しているところを駆け抜けるから、

スリル満点だ。

満天どころか、死んでもおかしくないな、

とリアルに思う。

そしたら自分が満天の星空行きだ。

(ちなみに僕は海外保険の類は

何も入っていない)

 

僕は400C C の中型バイクを持って

いるがこんな危険は感じたことはない。

大きなバスやほかのバイクに接触寸前の

距離を、僕を乗せたバイタクは突っ走る。

信号のない交差点を、自分がルールだ、

といわんばかりに突っ切る。

目の前に、対向車が突っ込んでくる。

あまりの危なさに僕が、

ウォー

と叫ぶと、バイタクおじさんが、

イヤッホー!

と叫ぶ。

いやいや、イヤッホーじゃないよ君、

と僕が言って笑うと、

バイタクおじさんも声をあげて笑った。

 

20,000ドンといいながら、

歩いたとしたら30分はゆうに

かかっただろう距離だった。

1ドルをチップとしてあげると、

バイタクおじさんは喜んで、

刑務所を観終わるまで待ってようか、

といってくる。

さすがにそこまではいい、と断ったが、

写真を撮ってもいいか、と聞くと

快くOKしてくれた。

 

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どこからみてもバイクを所持してるだけの普通のおじさん

 

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刑務所博物館(けっこうエグかったです)

刑務所博物館を出て、すっかりベテラン

の気分でさっきと違うバイタクを

捕まえると、さっきよりも距離的には

近いはずなのに60,000ドン、

と吹っかけられた。

高いからいい、といって

僕が歩き出すと、

ハウマッチ、ハウマッチ

と食い下がってくる。

僕が20,000ドン、というと、

30,000ドンと返事がくる。

一気に半額。

なんでさっきより距離が短いのに

1.5倍もするんだよ、と腹が

たたなくもなかったが、

所詮は130円か180円かくらいの、

さもしい庶民の戦いでもある。

僕は仕方なく30000ドンで手をうった。

 

しかし、よくよく考えてみると、

ふっかけてきたバイタクの方が利口

なのかもしれないと後になって思う。

要はサービスにだって、定価や

適正価格があるべきだ、という考えが、

あまりに日本的なのかもしれない。

(もちろん法外な金額は別として)

距離と費用を考えて、提示金額に

みあうと思うなら乗る。

それだけの話な気もしなくはない。

 

個人的には初めて20,000ドンで

乗ったバイタクおじさんのほうが人間と

して好きだが、値切られたら後がない分、

60,000ドン スタートのバイタクの

ほうが利口かもしれない。

だが、最初からふっかけてくるバイタクを

嫌う人もいるだろうから、そこはやはり

商売のやり方が違う、ということだろうか。

 

20,000ドンを提示したバイタクも、

僕が最初はいらない、といったから

しょっぱなから限界価格を言ってきたの

かもしれないが。。。

 

日本的な感覚だと、まさか倍以上の価格

から提示されるとは思わないから、

日本人はきっと、僕も含めて

格好の獲物に違いない。

 

いくらならいいんだ、といわれると

市場価格がわからないこちらは不利の

ようにも思える。

日本なら、

「いくらならできますよ」

といわれるのが普通で、

「いくらならいいですか?」

なんて聞かれたことはあまりない。

冷静になってみれば買い手はこちら

なのだから、その点を冷静になって

考えれば大きな失敗はしないだろう。

バイタクに限って言えば、なにも建物も

何もない荒野で、一台しかない

バイタクと交渉するわけではないのだ。

 

そういえば、昔、商社で働いていたころ、

出張先の中国・広州東莞で

こんなことがあった。

宿泊先のホテルの1階で貴金属店があった。

普通ならそんなところで買い物を

しようとは思わないが、その地域では

それなりの規模の五つ星ホテルだった

から、まがい物は売ってないだろうと思った。

 

当時、僕は付き合い始めたばかりの

恋人がいて、彼女に何か買ってもいいかな、

とは思っていた。

 

赤い宝石のようなものが埋め込まれている

ブレスレットがあって、ハウマッチ、

と聞くと、ひとのよさそうな中国人店主が

700元、という。

1万円ちょっとくらいならいいか、

と僕は言い値で購入した。

部屋に戻ったが、特に取引先との

会食の時間までやることがあるわけでもない。

僕は散歩でもしようか、と思い再び

1階に行き、ついでにさっきの貴金属店に

立ち寄った。

僕が翡翠の入ったネックレスを眺めていると、

さっきブレスレットを700元で売ってきた

ばかりの店主が、それ欲しいか、

と聞いてくる。

ハウマッチ、と一応聞いてみると、

600元、買うか?と言われた。

ついさっきブレスレットを買ったばかり

なのに、ネックレスまで買う気は微塵も

なかったから、僕は首を横に振った。

いくらなら買う?

と笑顔のまま食い下がってきたので、

150元くらいかな、と冗談交じりで

答えると、店主がまさかの即答で、

OK、OK

とのたまった。

なんと、600元が150元まで下がる

というではないか。

 

いや、さきほどあんたから700元の

ブレスレット、買ったばかりなんだけど。。。

 

俺がさっき買ったばかりの

ブレスレット、ほんとはいくらなん??

 

(という中国での回想でした)