人生見切り発車

永遠にみつからない自分探しの旅(仮)

過去の見切り発車 海外放浪 一人旅 ベトナム編 16 《生ける遺体》

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偉大なる革命家 ホーチンミン

 

その夜はなぜか寝つけず、午前2時過ぎに

ようやく眠りについた。

 

夢をみた。

なぜか僕は露店のようなところでTシャツ

を売っていて、中学時代のクラスメート

にでくわす。そんな僕を一瞥し、

「なんだ、お前フリーターなの」

とクラスメートが僕に告げる夢だ。

 

いやな夢をみたせいか、6時に目が覚めた

というのに、再び眠ることができない。

 

少し早いが、ホテルを出ることにした。

その日は、ベトナム革命を指導した、

建国の父と崇められるホーチーミンが

眠るという、廟に行く予定だった。

 

まだ明け方だというのに、相変わらず

路上はバイクでいっぱいだった。

このひとたちは、こんな時間から

どこに向かっているのだろうか。。。

 

地図を頼りにしばらく歩くと、

目的の廟が視界の奥に見える。

 

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目の前は一面青々とした芝生だった。

歩道があるのだが、英語で立ち入り禁止

と書いてある。

おかげで入口までたどり着くのにだいぶ

手間取った。

 

あちこちに制服の警官が、警備をしている。

左手に大きく旋回し、ようやく入口に辿り

着いた。

 

5000ドンを支払い、いわれるがままに

手荷物を預け、空港のセキュリティ

並みに厳しいチェックをうける。

電話禁止、とかいてある警告が壁に

貼ってある。

 

中国からベトナムへ入国した時とは

比べ物にならないくらいの厳重な警備に

正直、驚いた。

 

参観者は一列になって、廟に向かう。

70%くらいが白人だ。どうやらここは、

外国人にとって有名な場所のようだ。

 

赤い絨毯のようなところを、今度は2列に

なって歩く。

入口から先は、あちこちに白い制服の警官

がライフル銃なものと、大槍のようなもの

を携えて警備にあたっていた。

冗談でも不穏な動きをしてしまったら、

あの槍で一突きにされてしまいそうだ。

 

さらに中に入ると、人差し指で

シー

というしぐさを警官がしている。

どうやら、私語すら禁止らしい。

 

プラスチック素材のような不思議な床

を歩き、順列に沿って2階にあがった。

 

この建物を包む重苦しいほどの

ものものしさは、先に進むにつれ

濃度を増していくかのようだった。

 

ホーチンミンの遺体が安置されている

部屋に入った僕は、思わず息をのみ、

突然、落雷をうけたような衝撃に身を

包まれた。

 

てっきりミイラとして保存されている

と思っていたホーチンミンは、軍服に

身を包み、生前のままの姿で安置

されていた。

 

頭髪はほとんど残っていないが、

わずかに髭が見える。

(白い髭だった)

死化粧をしているのか、顔は蝋人形の

ようにまっしろだった。

 

安置された遺体は部屋の中央にあり、

その遺体を囲むようにして、四隅に

軍人がそれぞれ1人ずつ微動だにせず

直立している。

遺体はあまりに生々しく、今にも

動き出しそうでもあった。

 

安置されているベッドを周回する

形で、順路は進む。

 

参観している白人たちは、なんだ

こんなものか、といったていで

足早に歩いていく。

 

僕は、この空間が、奇異なものに感じた。

そう、とてつもなく、異質なものに。

例えていうのならば、車道を挟んだ

向こう側に、斧を持った大男が殺戮を

繰り返しているのに、こちら側の歩道

では、誰も気にせず笑いながら歩いて

いるかのような、そんな異質さ。

 

こちらではこちらの文化、考え方もあるの

だろうし、背景もわからない異国人の僕が

口を出すことでもないのはわかっているが、

それでも、これでは、まるで、

まるで。。。

見世物ではないか。。。

と思わずにはいられない。

 

ベトナムでは、神のように崇められている

のだろうが、火葬も埋葬もされず、

生前のままの姿で、永遠にこの建物で、

金を払って入る観光客に姿をさらすことが、

行為が、果たして、かつては、1人の人間

だった対象にたいして、

赦される行為なのだろうか。。。

 

僕は自分の遺体が、同じように死化粧を

施され、中央に寝かされ、観光客が毎日

のように見に来る光景を想像して、

背筋が冷たくなるのを感じていた。