人生見切り発車

永遠にみつからない自分探しの旅(仮)

海外旅行で鮮やかなスリにあった話(中国編 後編)

 

 

 

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ここが南寧だったかな。。。?


《続き》

旅行会社に用があって、街中の五つ星ホテルにいった。

天井が吹き抜けの、この旅では全く縁がない豪華なホテルだった。

 

用事をすませてホテルを出ると、外はいつのまにか暗くなっていた。

 

一瞬、自分を執拗に見つめる、黒い影が視界のどこかをよぎった気がした。

きのせい、きのせい。。。

僕は自分に言い聞かせた。

 

3か月ほど東南アジアを旅行して、それまで危ない目にあったのは1度だけ。

ベトナムのぼったくりカラオケだけだ。

でも、それは違う国だし、なにより今自分がいるのは密室ではない。

大都会の真っただ中とはいえないが、地方都市のそれなりに人通りがある場所だ。

 

僕は悪寒をおぼえた。それは悪い予感からではなく、体調不良のせいだった。

少なくとも、そう思っていた。

 

一週間ほど前に、ラオスメコン川からピックアップトラックで30分もかけていく

僻地で風邪をひいて数日間寝込んだのが、ぶりかえしてきたのかもしれない。

 

ぎりぎりホテルと呼べるくらいの安宿までは、歩いて十五分くらいだ。

ひょっとしたらバスとかを使えば早く行けるかもしれないが、

異国のバスほど使い勝手の悪いものはない。

回り道をしているのか、そもそも反対方向に向かっているのか、判断が難しいからだ。

 

僕は信号待ちをしていた。信号を待っている人はまだらで、

車通りも多いとはいえない。

遠くから、クラクションの音だけはいつもどおり騒がしく鳴っている。

目の前を、ペダルがついた原付バイクが、通り過ぎていく。

(ガソリンがなくなったらペダルをこぐのか?まさか??)

 

とりあえず、宿に帰って眠りたい。

一人旅で風邪をこじらすと、いろいろと刹那さがはんぱない。。。

 

信号が青に変わる。

なぜか今日は中国語でまくしたててくる物売りにでくわさない。。。

(僕はいつも、それらのしつこい物売りには、日本語で「中国語は話せない!」といいかえす。それでも怯まず、中国語で話し続けるのが中国人のすごいところだ)

 

歩き始めようとした僕は無意識にウエストポーチに手を伸ばした。

 

あれ。。。

 

口がひらいている。。。

 

チャックではなくて、ボタンで留めるタイプのウエストポーチ。

この旅を始めた時から寝るとき以外はずっと身に着けていた。

 

入っているのは、パスポートと財布。。。

 

瞬間、僕は毛穴が総毛だつような恐怖と、ボタンを留め忘れた?という考えに

同時に襲われた。

僕はウエストポーチの中に右手をつっこんだ。

ない。。。

見事に、財布がなくなっていた。

エストポーチのボタンを留め忘れたということは、おそらくない。

ということは、スリは僕に気づかれることなく、ボタンを外し、

手をつっこんだということだ。

 

まさか。。。

僕はホテルを出たときに感じた、あの執拗な目線を思い出していた。

もしや、つけられていたのだろうか。

考えてみれば、高級ホテルから出てきた土地勘のない日本人など、

スリからしてみれば、カモがネギをしょっているような

格好の餌食に見えたに違いない。

 

僕は背中にしょっていたリュックサックをあらためた。

リュックにいれていたかも、という淡い期待はあっさり打ち砕かれた。

思い違いかとも思ったが、やはり盗まれたようだ。

あの財布は、ウエストポーチからほとんど出すことがない財布だからだ。

 

だが、僕の(多少なりともある)用心深さのおかげが、

致命的なダメージを負うすんでのところで僕を救った。

 

まず、パスポート。僕はパスポートを縦ではなく、横に入れていた。

エストポーチの幅はパスポートを横にするとぴったりくらいだったため、

スリが片手を一瞬いれて取り出すには難しい。

 

だがひょっとしたら取れないことはなかったかもしれない。

パスポートをなくしたら、身分を証明するものはない。

海外では、致命的だ。

 

そして盗まれたのは財布は財布だが、記念品を入れている財布だった。

中国で旅を始めてから、ベトナムカンボジア、タイ、ラオスとわたった

僕は記念品として、各国の最小単位の紙幣をそこにいれていた。

米ドルでいえば、1ドル紙幣ってやつだ。

 

今頃、僕の財布を盗んだスリは、目を丸くしているに違いない。

 

それでも、ショックはショックだった。二度と行かないかもしれない

国の紙幣は、どうやってもまた手に入るものではないかもしれないからだ。

それに、小額紙幣は、それぞれの国の、僕のちょっとした

「思い出のかけら」だった。

 

周りをみまわしてもそこにはいつもと変わらないはずの、雑踏があるだけだった。

そのことが、とても薄気味悪く感じた。

 

少なくとも、パスポートが無事だったんだから、よしとしよう。。。

そう思うしかなかった。

 

それにしても、人込みの中で信号待ちをしていたならまだしも、

いつどのタイミングでやられたのか、さっぱりわからなかった。

いや、もしかしたら信号待ちをする前からやられていたのかもしれない。

風邪気味で、注意力が散漫だったせいもあるかもしれないが。。。

 

恐らく、普段から窃盗を生業にしているスリにやられたにちがいない。

僕が鈍感すぎたのかもしれないが、鮮やかすぎて、気味が悪かった。

 

いつのまにか、信号は再び赤となり、ペダルつきの原付やら車やらが

騒々しく僕の前を横切っていった。