人生見切り発車

永遠にみつからない自分探しの旅(仮)

過去の見切り発車 海外放浪 1人旅 42 ベトナム編《ダナン ぼったくりバーにひっかかる④》

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見切り発車 財布の中身を思い出すの巻


僕が警察を呼べ、と言い、

いいだろう、呼んでやる、と小太りの

男はうけおったが、なかなか呼ぶ気配がない。

 

しばらくの沈黙の後、諦めたかのように

小さく息をついて、小太りの男がいった。

 

財布の中を見せてみろ。

ほんとに50ドルしかないなら、

それで手をうってやる。

 

ノーといいながら、僕は財布の中にいくら

入っていただろうか、考えてみる。

 

50ドル、

10ユーロ、

80万ドン、

1万円。。。

 

合計で2万円くらいか。

50ドルだけ財布から出し、部屋を出ようと

僕は立ち上がった。

 

すると、小太りの男に不意に腕をつかまれ、

部屋の角にひっぱられる。

思いがけず、強い力だった。

 

だが、僕は不思議と恐怖で震えてはいなかった。

 

怒りのせいだった。

理不尽な ぼったくりバー、

裏切ってきたすきっ歯のバイタク、

そしてそのバイタクを信用しきっていた自分。。。

 

だが、震えていないとはいえ、当然のことながら

ある程度の恐怖は感じていた。

 

冷静に考えて、もみ合いになって、

誰か1人がビール瓶で僕の頭を殴れば

一発でゲームオーバーだ。

 

しかもここはベトナム

ベトナムの治安や警察組織がどれくらいの

ものなのか、まだわかりかねていたが、

リアルな話、殺されてもおかしくはないのだ。

 

問題はもうひとつあった。

仮に、445ドルに納得して

(するつもりもなかったが)払ったとしても、

財布とは別に、腰にあるウエストポーチには

2500万ドンの札束が入っている。

(カジノで取り返した分だ)

 

その金を見て、彼らは冷静で

いられるだろうか。。。

 

完全なる袋小路。

出口が全く見えない状況だった。

 

小太りの男が、壁際に僕を追い込み、

こういった。

 

Look, I don't want to hit you.

(おい、俺はお前を殴りたくない)

 

そのセリフは、とてつもなく冷酷で、

ゆるぎないものとして、

僕の鼓膜に響いた。

 

《続く》