人生見切り発車

永遠にみつからない自分探しの旅(仮)

過去の見切り発車 海外放浪 1人旅 48 ベトナム編《クイニョン到着》

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どいなかクイニョンw

 

翌日、例によって街と街をつなぐ外国人専用の

乗合バスで、クイニョンに着いた。
意外にも降りる乗客が多い。
 
バスを降りると、芸能人に群がる
オタク並みの勢いで、バイタクが
群がってくる。
これも、もう慣れっこだ。
 
どこに泊まるか決めたか、と
さっきまでバスで一緒だった人に
聞いてみると、
No idea
 
と言う。僕もノーアイデアだというと、
彼は、ハハッと楽しそうに笑った。
 
やがて近くに1軒だけあるという
ホテルに彼は行くことにしたようで
僕もとりあえずついて行くことにした。
 
だが途中で地図を持った別の男が、
ここは高速道路沿いなだけで、
街の中心地ではない、と言い出した。
 
結局彼らは近くのホテルにタクシーを
呼んでもらい、それに乗って
去っていった。
 
いつの間にか、バスを降りた乗客
で残っていたのは、僕と見知らぬ
ラフな格好の白人おじさんだけとなった。
 
このおじさん、どれくらいラフな
格好かというと、
くたびれたTシャツに短パン、
安物のビーチサンダルと、
まるで近所のコンビニに深夜に
酒のツマミでも買いに来たかの
ようなイデタチだ。
 
一見にして、ただモノではない。。。
 
どうしようかと、そのおじさんに
聞いてみると、ここが街の中心でない
ならタクシーを呼んでシェアしよう、
と提案され、そうすることにした。
 
流しのタクシーを捕まえ、2人で
乗り込む。
僕が日本人だと自己紹介すると、
アメリカ人だというおじさんは、
日本には2週間くらい行ったと言う。
 
広島、大阪、奈良、京都、東京。。。
ほとんどカプセルホテル暮しだった
らしい。
やはり、なかなかのツワモノだ。
 
タクシーにつれてこられたホテルでは
1泊13万ドンと言われた。
 
一緒にいた白人おじさんが交渉する。
2人で2部屋なんだから10万ドンで
どうだ、と。
12万ドン、11万5000ドンと値段は
落ちていき、ついには11万ドン
になった。
 
おじさんはこれ以上下がらないと判断した
のか、OKと言った。
じゃあここに泊まるんだな、と
僕が思っていたら荷物を置いて
外に出ていってしまう。
 
どこいったんだろうと思っていたら
しばらくして戻ってきて、
隣は8万ドンだから隣にしよう、
と言って自分のバッグを持つ。
 
すると、ホテルのフロントが、
ちょっと待って、こっちも8万ドンに
するから、と引き止めてくる。
 
隣のホテルは見てないが、
正直値段が一緒なら僕はどっちでも
よかったので、とりあえず部屋を
見せてもらう。
 
見せてもらった部屋は壁はお世辞にも
キレイとは言えなかったが、
ベッドは、まあ清潔そうだったから
ここにすることにした。
 
白人おじさんに、8万ドンにするなんて
さすがだねえと感心して言うと、
おじさんは初めて人懐っこい
笑顔を見せた。
 
旅慣れた人間はどこかとっつきにくい
ところがある場合が多いが 、
仲良くなってみると案外いいひと
だったりする。
この白人おじさんもそうらしい。
 
毎日誰かと出会っては別れての
繰り返しをずっとしていると、
人間とっつきにくくなってしまう
のだろうか。
 
僕も、いずれはとっつきにくく
なってしまうのかもしれない。。。

過去の見切り発車 海外放浪 1人旅 47 ベトナム編《ダナン ぼったくりバーその後 すきっ歯の家》

 

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見切り発車 ベトナムの闇を垣間見るの巻
ぼったくりバーから脱出し、夜道を
1人歩いていると、二十歳くらいの
バイタクに話しかけられた。
 
ベトナムで初めて乗ってからは、
足替わりにバイクタクシーというものを
気軽に活用していたが、そのバイタクに
ぼったくりバーに届けられて痛い目に
あっただけに、もうさすがにコリゴリだった。
 
いらない、と僕は素っ気なく言って
地図を見た。
 
バイタクは一瞬で諦めたらしく、
またぼんやりと道路を見つめている。
 
どうやら僕を騙したすきっ歯のバイタク
と違い、しつこく勧誘してくる気は
なさそうだ。
 
僕は小さく息をついた。
どのみち、ここがどこなのかも
わからないのに、地図とにらめっこ
していてもホテルにはたどり着けそう
もない。
 
我ながらいい度胸してるよ、
と内心苦笑しながら、そのバイタクが
僕が泊まっているホテルを知っていることを
確認し、2万ドンでそのバイタクに乗った。
 
また変なところに連れていかれたら。。。
という僕の思いは杞憂だったらしく、
ホテル周辺の見慣れた風景が目に入ってくる。
 
僕はホテルの近くでおろしてもらった。
 
僕をぼったくりバーに連れ去った
すきっ歯のバイタクの母親がいる
カフェの店に行くつもりだった。
 
何しろ、酷い目にあった。
殴ってやろうとまでは思わなかったが、
文句くらいは言いたい。
 
胸ぐらをつかみ、
Go to hell
(地獄に落ちろ)
くらいは言ってやりたい。
 
それくらいしてやらねば、
腹の虫がおさまりそうにもなかった。
 
カフェの店内は昼間と同じで、
老婆と少女が、時間が止まっている
かのように同じ場所でたたずんでいる
だけだった。
 
すきっ歯のバイタクは、職業柄、
まだ外で客待ちをしているのかもしれない。
老婆と少女は英語が通じないだろうし、
帰ってくるのを待つのも馬鹿らしい。
 
帰ろう。。。
 
そう思って店のドアに手をかけた
瞬間、僕は、ハッとした。
 
昼間の出来事が僕の脳裏に
フラッシュバックする。
 
バイタクは自宅であるこの店に帰宅
したところ、偶然、さっきまで客引き
してた僕を見つけたといっていた。
 
だが、本当にそうだろうか。
 
実はこっそりと僕のあとをつけていて
僕がこの店に入ると見ると、少し間を
置いて店内に入った。
 
そして、ここが自分の家なんだ、
と嘘をついた。。。?
 
すきっ歯バイタクはベトナム語
この店の老婆になにか親しそうに話し、
ハグをして、僕に対して母親なんだ 
と紹介したが、実際のところ、
それは本当なのだろうか。。。
 
すきっ歯のバイタクの、母親である
はずの老婆は、実はただの知り合い、いや
下手すると知り合いですらないのかも
しれない。。。
 
彼のパフォーマンスは、ただの常套手段
であって、これまで何度も同じ方法で
客引きをしてきたのではないか。
 
ベトナムの闇をか垣間見た気がして、
しばし茫然とした僕を、困ったような
笑みを浮かべた老婆がみつめていた。。。
 
 

過去の見切り発車 海外放浪 1人旅 46 ベトナム編《ダナン ぼったくりバーにひっかかる⑧》

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見切り発車 まさかの展開に驚くの巻

 

 

 

 

Are you sure, is that all??

(本当に、これで全部か?)

 

小太りの男が、低いくぐもったような

声で同じセリフをもう一度言った。

 

Are you crazy?

(何をいっているんだ)

Look, this is empty.

(ほら、からっぽだろ)

そういって、空の財布を見せる。

 

なぜ、この男は同じ質問を繰り返すのか、

僕にはさっぱりだった。

だが、いずれにしろ、大金が入っている

エストポーチは死守しなければならない。

たとえ、どうなってもだ。

 

不意に、男が壁に向かってつぶやく

ように言った。

you go.

(行け)

 

僕は心の中で、What??(なんだって?)

とつぶやいていた。

だが小太りの男は、壁の方に視線を向けた

ままだ。

他の男2人も、おいおい、それでいいのか

といった納得のいかない表情を浮かべていた。

だが、反論はしない。やはり、小太りの男が

ボスなのだろう。

 

この後、どうやってウエストポーチを

死守しようか考えていた僕にとって、

まったく予想もしなかったセリフだった。

 

警察に行く、といった僕の言葉が思いのほか

効いたのか、それとも出ていこうとした

瞬間、後ろからビール瓶で殴ろうとでも

思っているのか。。。

 

だが、ためらっている場合ではなかった。

ここに残るメリットは、僕にはない。

 

僕は警戒しながら、ドアをでた。

階段手前に別の部屋があり、その中に

いた老婆と目があった。

まったくもって、ここがぼったくりバー

とは思えなかった。

 

階段を降りきって、外に出た。

追ってくる気配はない。そもそも

追うくらいなら行けとはいうはずが

ないのだが、それでも何度も後ろを

確かめながら僕は、ぼったくりバーから

できるだけ離れた。

 

もう大丈夫だと確信したころ、

僕は安堵のため息をついた。

なんとか2500万ドン(13万円くらい)

は取られずに済んだ。

 

念のため財布を見ると、空だと思っていた

中身は、7万ドンだけ残っていた。

なんと親切なことだ、と僕は苦々しく思った。

帰りのバイタク分は残っているではないか。

 

あるいは、本当に全部の金をとれば、

ホテルにすら戻れないため、警察に行くしかない

と奴らは思っていたのかもしれない。

そう思わずにいられないくらい、男たちは

場慣れしていた。

 

それにしても、ここは一体どこなのだろう。

見当もつかず、僕は街灯すらほとんどない

暗い夜道を、再び歩き始めた。。。

 

 

 

過去の見切り発車 海外放浪 1人旅 45 ベトナム編《ダナン ぼったくりバーにひっかかる⑦》

 

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見切り発車 ウエストポーチの中身について想いをはせるの巻


痩せた男が、僕のウエストポーチに

粘着質の視線を向ける。

 

金の匂いをかぎ取っているのなら、

それは正解だ。

 

エストポーチには、カジノで取り返した

2500万ドン(13万円くらい)の札束

が入っている。

 

既に財布から2万円を抜かれているが、

最悪取っ組み合いになろうとも、

これだけは死守するつもりだった。

 

15万円はビール1杯の代償としては、

あまりに高すぎる。

 

だが、僕を囲む3人の親玉であろう

ホクロ髭を生やした小太りの男は、

痩せた男の僕への追及に追撃せず、

Is that all? (これで全部か?)と聞いた。

 

As I said, this is all my money.

(いったとおり、これで全部だ)

と僕は返し、こう続けた。

Look, If you let me go now, I will not

go to police, but if you go further, 

I will.

(おい、今俺を開放するなら、警察には

行かないが、もしこれ以上やるなら、

警察に行く)

 

そう言った後に、これでは、自分は

もっと金を持ってるぞ、

といっているようなものかもしれない、

と僕は思い、いやな汗が背筋を伝うのを

感じていた。

 

だが、これ以上やられたら警察に行こうと

思ったのは本気だった。

もちろん、行ってどうにかなるとは

思っていなかった。そもそも、警察が

英語を話せるのかもわからないし、

話せたとしてもそもそもベトナム

警察がどこまでとりあってくれるか、

ゴロツキのぼったくりバーごときに、

まともに動いてくれるとは思えない。

 

まあそもそも、日本でさえ、

ぼったくりバーに騙されたとして、

それくらいで警察が動いてくれるのかすら

もわからないが。。。

 

もっといえば、僕は自分が今どこにいるかも

わからないし、今は夜だ。

警察を連れて戻ってくることなど、不可能に

近い気がする。

 

だが、何もせず泣き寝入りはしたくなかったし、

自分への言い訳も兼ねているかもしれないが、

何もせずに諦めるには、15万円は大きすぎた。

 

だが、警察に行く云々の前に、

もっと大きな問題がある。

 

警察に行く前に、

生きて出られるかどうか、

という差し迫った問題が。。。

 

それが考えすぎなのか、

確かに憂慮すべき問題なのかは、

この時の僕はわからずにいた。

 

 

《続く》

過去の見切り発車 海外放浪 1人旅 44 ベトナム編《ダナン ぼったくりバーにひっかかる⑥》

 

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見切り発車 いい年こいてカツアゲにあうの巻


財布を出せ、といわれ、僕はまごついた。

 

そういえば、フィリピンで仕事をしていた

知り合いが、こんなことをいっていた。

 

バスに強盗が現れて、乗客全員の財布を

出せといった事件がフィリピンでは

おきることがたびたびある。

 

日本人は、抵抗する人間が多いが、

抵抗するとその場で射殺されることが

ほとんどだという。

 

現地のフィリピン人は、ほとんど

抵抗せず、そのままカバンごと出して

しまうらしい。

 

平和ボケの環境で過ごしている日本人は、

本当に危険な状況に出くわしても、

イマイチ、ぴんとこないのかもしれない。

 

この時、財布を出さなかったら、

どうなっていたか、それはわからない。

 

だが、男三人に囲まれ、出口はふさがれていた

から、自分の腕試し(しかも命懸け)を

してみるか、財布を出すか、どちらかしか

選択肢はなかった。

 

どうせなら、海外放浪に通う前に集英社

通って北斗神拳でもマスターしてくれば

よかったが、後の祭りとはこのことだ。

 

僕がしぶしぶ財布を出すと、

80万ドン(5千円くらい)は

あっさり抜かれ、そのあと紙幣1枚1枚

吟味し、これはなんだと聞いてくる。

 

トラベラーズチェックが財布から出てきた

とき、それは使えないぞ、パスポートが

必要だというと(それは真実だった)、

それはお前のいうとおりだ、

とあっさり受け入れられた。

 

クレジットカードが抜かれないように、

僕は財布からクレカをとって、ズボンに

いれる。

 

いまポケットにいれたのはなんだ、

といわれ、クレジットカードだ、

と素直にいうと、

それ以上は追及してこなかった。

 

どうやらクレカまで手をだすほどの

悪党ではないらしい。

恐らく、足がつくからだろう。

 

結局80万ドン、1万円札、と

少しばかりのユーロなどが取られ、

財布は見事に空になった。

 

小太りの男は財布を僕に返して、

Is this all?(これだけか?)と聞く。

 

僕は小太りの男の、爬虫類のような目から

目をそらさないようにしながら、言った。

This is my wallet. 

How could I have money other than my wallet!

(これは財布だぞ、全部に決まってる!)

 

別の痩せた男が、後ろのポケットのふくらみ

はなんだ、という。

ごみしか入ってない、と僕は返して、

ポケットを裏返す。

 

これではまるで、カツアゲにあった中学生だ。

なんならジャンプしてコインの音がしないか

確認してもらった方がいいかもしれない。

 

痩せた男が続けて、僕のウエストポーチを

指さしていった。

What is that ?(それはなんだ?)

 

まずい、と僕は思った。

エストポーチにはカジノで取り戻した

2500万ドン

がそっくりはいったまんまだった。

 

僕は、対角線にある部屋のドアに

目をやった。

それは、まるで蜃気楼の果てにでも

存在するかのように、とてつもなく

はるか遠くに見えた。

 

過去の見切り発車 海外放浪 1人旅 43 ベトナム編《ダナン ぼったくりバーにひっかかる⑤》

 

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見切り発車、追い詰められるの巻(画像はイメージです)

 

 

Look, I don't wanna hit you.

(俺はお前を殴りたくはない)

 

小太りの男が、壁に僕を追い詰めながら

そういった。

 

意訳すれば、つまりこういう意味だろう。

 

殴られたくないなら

金を出せ

 

だが、実際には

「殴られたくないなら金を出せ」

とストレートにいわれるより、

彼が発した、

「俺はお前を殴りたくない」

というセリフの方が何倍も怖かった。

 

だが僕は、一瞬だけかもしれないが、

怒りが恐怖を超えたのか、それとも

平和ボケすぎてて

本当の意味での現実を理解してなかった

のか、普段の自分からは想像もできない

セリフを返した。

 

You can hit me, but 

I will hit you back!!

(殴りたいなら殴れ、だが、

俺は殴り返す)

 

小太りの男は、僕の反応が予想外

だったのか、黙り込む。

しばらくして、男は再び口を開いた。

 

...Show me your wallet.

If you really don't have money,

I will let you go.

(財布を出せ、本当に金がない

なら許してやる)

 

なんだかわからないが、やはりこういう

からには、店側にとっても警察を呼ぶのは

分が悪いようだ。

思ったよりベトナムの警察はまとも

なのかもしれない。

 

ここで、財布を出さずに、いきなり

掌底で目の前の男の顎骨をまっぷたつにし、

ストリートダンサーのような

身のこなしで、他の男を足払いで

転倒させ、ひるんだ最後の男を

後ろ回し蹴りで壁まで吹っ飛ばせたら

格好いいのだが、現実にはそうもいかない。

 

なんせ、僕は格闘技の経験はないし、

もっというならば喧嘩すらほとんどした

ことがない。

(それでまあよく海外の夜道を一人で

徘徊してるもんだ。。。)

 

それに、彼らがどこまでの覚悟があるのか、

それがわからなすぎる。

なにしろ、ここは日本のスナックではなく、

ベトナムなのだ。

 

彼らが本当に、場合によってはビール瓶で

僕の頭を割ってもいいと思っているとしたら、

冗談じゃなく命懸けといえる状況だった。

 

《続く》

過去の見切り発車 海外放浪 1人旅 42 ベトナム編《ダナン ぼったくりバーにひっかかる④》

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見切り発車 財布の中身を思い出すの巻


僕が警察を呼べ、と言い、

いいだろう、呼んでやる、と小太りの

男はうけおったが、なかなか呼ぶ気配がない。

 

しばらくの沈黙の後、諦めたかのように

小さく息をついて、小太りの男がいった。

 

財布の中を見せてみろ。

ほんとに50ドルしかないなら、

それで手をうってやる。

 

ノーといいながら、僕は財布の中にいくら

入っていただろうか、考えてみる。

 

50ドル、

10ユーロ、

80万ドン、

1万円。。。

 

合計で2万円くらいか。

50ドルだけ財布から出し、部屋を出ようと

僕は立ち上がった。

 

すると、小太りの男に不意に腕をつかまれ、

部屋の角にひっぱられる。

思いがけず、強い力だった。

 

だが、僕は不思議と恐怖で震えてはいなかった。

 

怒りのせいだった。

理不尽な ぼったくりバー、

裏切ってきたすきっ歯のバイタク、

そしてそのバイタクを信用しきっていた自分。。。

 

だが、震えていないとはいえ、当然のことながら

ある程度の恐怖は感じていた。

 

冷静に考えて、もみ合いになって、

誰か1人がビール瓶で僕の頭を殴れば

一発でゲームオーバーだ。

 

しかもここはベトナム

ベトナムの治安や警察組織がどれくらいの

ものなのか、まだわかりかねていたが、

リアルな話、殺されてもおかしくはないのだ。

 

問題はもうひとつあった。

仮に、445ドルに納得して

(するつもりもなかったが)払ったとしても、

財布とは別に、腰にあるウエストポーチには

2500万ドンの札束が入っている。

(カジノで取り返した分だ)

 

その金を見て、彼らは冷静で

いられるだろうか。。。

 

完全なる袋小路。

出口が全く見えない状況だった。

 

小太りの男が、壁際に僕を追い込み、

こういった。

 

Look, I don't want to hit you.

(おい、俺はお前を殴りたくない)

 

そのセリフは、とてつもなく冷酷で、

ゆるぎないものとして、

僕の鼓膜に響いた。

 

《続く》