人生見切り発車

永遠にみつからない自分探しの旅(仮)

過去の見切り発車 海外放浪 1人旅 23 ベトナム編《雨の中、フエの街を歩く》

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見切り発車 古都を歩く

フエの街を歩いていると、小雨が降りだす。

ベトナムに来てからの、初めての雨だった。

ベトナムは日本でいう冬(11月~4月)が

乾季にあたるらしい。

今はちょうど11月の中頃だから、

旅をするにはいいシーズンなのだろう。

 

小雨がやや強くなり、雨が降りしきる中を

フエの古城へと歩を進める。

ここでも、なぜかフランス人が多い。

とはいえ、観光客の姿はまばらで、

ほとんど人が歩いていないところも多い。

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ベトナム人の女性に、話しかけられる。

どうやら、ベトナムの大学生らしい。

アンケートを受けてほしいようだ。

 

新しい商法だとかなわないので、

念のため、

Is it Free? (無料だよね)

と聞いてみるが、ほとんど英語を理解

しないらしく不思議そうな顔をして

見つめ返してくるだけだ。

 

まあいいか、と僕は思う。

恐らく大学のゼミか何かの課題なのだろう。

それに、ここでアンケートを書くぐらいで

身ぐるみをはがされるとも思えない。

 

フエは初めてか、国籍はどこか、どれくらい

滞在するのか。。。そんな内容に

僕は自分の答えをアンケート用紙に

埋めていく。

 

物売りについて、どう思うか。

 

その問に対して、

はっきりいってかなりしつこいが、

悪いことなのかどうかはわからず、

no idea (わからない)

と記入する。

 

乞食をなくすにはどうしたらいいか、

という問いもあった。

仕事も辞めて海外を適当に歩いている、

宙ぶらりん状態の僕が的確な回答ができたら

政治家などいらないだろう。

 

なんとか全部埋めてアンケート用紙を

返すと、礼儀正しく長髪の女性は

頭を下げて微笑んだ。

 

雨に濡れた古城や建築物たちは、幻想的

でもあったが、なんとなくもの悲しさを

感じさせた。

 

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建物や風景などは、見る人の、見るときの

感情や気分によって、目に映る姿を

変えるものなのかもしれないな、

と他人事のように考えた。

 

古城の周りには、特に観光向けの何かが

あるわけでもなく、普通に民家が並んで

いるだけだ。

 

傘を差しながら歩いていると、カフェ

と書いた店がちらほらと目につく。

プラスチックの椅子とテーブルが

あるだけの簡易な店たちだ。

 

ある店で、5才くらいの女の子が、

赤ん坊を抱きながら、笑顔でハローと

僕に話しかけてくる。

どうやらこの子供一人で店番をしている

ようだ。

店といっても薄暗い店内で、コーラや

水などがケースに並べられているくらい

売店だ。とても毎日客がくるような

店には見えない。

僕はペットボトルの水だけを買って、

再び歩き出す。

 

再び雨の中で歩きながら、

僕はなぜ、歩くのだろう、と考えた。

歩きながら、いったい何を探している

のだろう。

 

父親がガンの検査をする、とあった

昨夜の母親からのメールを思い出す。

 

既に定年を迎えて退職した、年の離れた

父親は、最近は痔の状態が悪化して、

座るのもままならず、歩いても痛みが

あるらしく、家でいつも寝ながらテレビ

ばかりみている生活をしていた。

体重もだいぶ減り、毎日相当多くの

薬も飲んでいる。

 

僕はなぜ、異国の地を歩いているのだろう。

見つからないはずの何かを、なぜいつも

探して歩いているのだろう。

ひょっとしたら、見つからないとわかって

いるくせに、それをわからないふりを

しながら、現実逃避をしているだけ

なのか。。。

 

トイレに行きたくなってきた。

センチな気分に浸っていても、生理現象は

知らん顔をしてやってくる。

困ったことに、道路の両脇は隙間なく民家

が並んでいて、茂みの中でするわけにも

いかない。

これが日本なら最悪、民家にお邪魔できる

かもしれないが、言葉も通じない異国

じゃ単なる変質者と間違えられても

おかしくない。

 

尿意に耐えつつモジモジしながら

歩いていると、学校らしき施設があった。

 

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大きな正門の少し左にある通用口みたい

なスペースがあり、入っていいかも

わからないまま、勢いで入ってみた。

 

校庭には子供が数人遊んでいて、僕の

姿をみるなり、ハローと声をかけてくれる。

ハローと返しながら、先生らしき人をみつけた。

女性の先生は、少し戸惑ったような笑顔を

僕に向ける。ポニーテールの、ベトナム人

らしい彫りの深い美人だ。

 

無精ひげを生やした異国人がいきなり

真昼間に学校に入ってきたのだから、

考えてみれば、先生が怪しむのも当たり前だ。

 

僕は先生に、Toilet(トイレ)といった。

だが、理解してくれない。

W.C といってもわかってくれない。

ここぞとばかりに手を洗うしぐさを

してみたがそれでもだめだ。

だが、尿意はすでに崩壊寸前の勢いまで

迫ってきている。

 

どうしたものかと途方に暮れそうになった

瞬間、近くにいた子供の1人が理解

してくれたらしく、あっちだよ、

と校舎の方を指さしてくれる。

 

なんとか大惨事にならずにすんだ、と

トイレを出ると、2階に続く階段があった。

厚意に甘えておいて、それはまずい

だろうとは思ったが、好奇心に勝てず、

2階にあがってみる。

 

階段をあがりきったところにある教室には、

誰もいなかった。

椅子は日本の学校にある木製のものと

そっくりで、逆さにして机にかけてあった。

水色の壁に、これも日本と同じような黒板がある。

黒板には、SONG HIENDAN と書いてあり、

その上にはホーチンミンの写真が額に

飾られていた。

ベトナムでは、いたるところに彼の写真や肖像が

ある。ツアーバスの運転席の上にもあった。

昔の日本の天皇も、こういう感じだったの

だろうか。

 

誰もいない教室でしばし佇みながら、

もし自分がベトナムでで生まれ、育ち、

この学校に通っていたら、と

僕は想像してみる。

 

ベトナムで育った僕は、

自分はどう生きるべきか

などという悩みとは、無縁だっただろうか。。。